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萌語り — 父のアルバム

 金木犀の香りが部屋の中まで届いています。10月の香りですね。
 でも、ちょっと香り過ぎて臭い…。近所にいっぱい植わってますから仕方ないけど、何でもほどほどが良いですね…。

 草間先生の『マッチ売り』を読んでいると萌心が大いに刺激され、久し振りに昔話などをしようかと思いまして…。ちょうど『マッチ売り』の登場人物とほぼ同年代(少し下かな)の父の話です。
 私の父は北海道の生まれです。昭和23年頃は、下宿しながら高校へ通っていました。“眼鏡”が住んでいるのと同じ学生の下宿屋ですね。あんなに広くて綺麗じゃなかったろうと思います。田宮虎彦さんの小説に『菊坂』というのがありますが、この主人公が住んでいた下宿屋の方がぴったりくるかも知れません。当時の思い出は、いつでも「お腹が空いたな」と思っていた事だそうです。
 苦学生でしたが、バスケットボール部に入り、丸刈りが多い中自分だけ髪を伸ばし(天パーを誤魔化すため)ポマードで固めるなど洒落者でした。友だちも多く、貧しくも楽しい学校生活だったようです。
 父は時々、こうした若い頃の話を聞かせてくれました。私はその話を思い出しながら父の古いアルバムを捲るのが好きで、虫干しも兼ねてよく覗いたものです。『マッチ売り』の中の町並みを懐かしく感じたのは、当時の風景をアルバムの中で見慣れていたからも知れません。
 下の写真がそのアルバムです。以前、自分の小説の資料用に撮らせてもらったものです。

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 白い文字は父が書いたもの。修学旅行で東京へ来た時の写真です。『靖国神社にて』って書いてある。列車の前の写真は上野駅ですって。他の頁にも友人の名前や、ちょっとした感想が綺麗な文字で書かれています。
 父のアルバムなのだから父が書いたんだと思いましたけど、普段はクセのあるミミズがのたくったような判読不能な文字を書くので、「これ、誰の字?」と母に聞くと、「お父さん。本当はすごく字が綺麗なのよ」と教えてくれました。
 丁寧に書くと達筆なんです(笑)。何で普段も綺麗に書かないんだろうと子ども心に不思議に思ったものですが、今は、それだけこのアルバムが大切なものだったのだと分かります。
 

 こちらは北海道で就職してからのもの。
 この後、いろいろあって田舎を捨てて上京し、会社を興しました。
“若社長”と一緒(笑)?
萌語り — 父のアルバム_a0095010_2231353.jpg

 就職してからは忙しかったのでしょうか、書き込みがなくなり、ただ挟んである状態のものもありました。それでも大切な人たちの写真なのでしょう、「この人、誰?」と聞くと、「〇〇さんだな…」と懐かしそうに話して聞かせてくれました。
 全ては、60年も前のお話です。
 父は戦争には行きませんでしたけど、母共々波乱に満ちた人生を歩んで来ましたので、いつか二人の話を書けたらいいなと思っています。それが最近の私の夢ですが、内容がBLっていうのは、少々親不孝な気がします…(勿論、普通の話も書きたいと思っていますよ!)
 縁起でもない事ですが、父が亡くなったら、このアルバムを形見分けに貰いたいと思っています。でも、80才近くなった今も全て自前の歯を持つ健康な父ですから、あの世のお迎えはもう少し先の事でしょうし、うかうかしていると私の方が先におっちんでしまいそうです。
 将来的に滅び行く家系ですから、アルバムと想い出を受け継いでも残していく者はおりません。このアルバムは、私が死ぬ時に一緒にお棺に入れて貰って、あの世に持って行く事になるでしょう。そうしたら、先に逝って待っているだろう両親に、またこのアルバムを眺めながら昔話を聞かせて貰おうと思っています。
 家人に話すと笑われますけどね。
「大丈夫。憎まれっ子世にはばかる、だから」…私も父も、きっと長生きするだろうと(笑)

 やっと訪れた秋の夜長、美味しい飲み物を用意して、昔話をつまみに語らうのも、なかなか良い親孝行になりますよ。
 
 
by apodeco | 2010-10-09 15:13 | 昔ばなし