夏休み〜よろず感想文 『憂鬱な朝』

水曜日からお休み頂いたのですが、五日の休みなどあっと言う間ですね…。
夏休みの終わりと言うと、いつも最終日に泣きながら宿題をしていたのを思い出します。昔を思い出しながら、久し振りに夏休みよろず感想文、漫画編と行きましょう。
ちゃんと小説も読んでるんですが、BL系は漫画しか読んでないので…でも、これはホントに久し振りにプルプル来てしまったので(どこがでしょうか?)、ご紹介したいなと思います。

憂鬱な朝 4 (キャラコミックス)

日高 ショーコ / 徳間書店

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今月発売になりました4巻目です。この手の漫画は出るのが遅いので、こちらも一年に一冊ペースの発行で、1巻目は2009年に出たものです。
時代は明治ですが、はっきりとした年号は出てきません。男子しか襲爵できないとありますから、明治40年以降でしょうか。若き子爵と家令との禁断の恋物語ですが、単に身分違いという単純な問題ではなく、時代と人間の業が絡み合う一筋縄ではいかないお話です。

主人公の久世暁人は由緒正しい家柄の生まれですが、階級は子爵ですからあまり高くありません。相次いで親を亡くし十歳で当主になりますが、事実上は怜悧な美貌の家令・桂木智之が家政をしきっています。
桂木は有能ですが、とても冷たく暁人に接します。まるで憎んでいるかのように。でも、暁人が頼れるのは桂木だけですし、怖いと思いながらも全ての指針を桂木に向けて成長して行きます。
私は1巻目を読んだとき、「これ、恋愛に発展すんの?」と不安でしたね。
暁人は桂木にあれだけ厳しくされて、よ〜く捻じくれなかったなぁと感心するほど聡明で素直に育ちますから、彼が桂木を想う気持ちは分かりますけど、とにかく桂木智之という男の本心が分からないままなので、切ないは、痛いは、心配だわで…はらはらしながら待つこと一年(なげー…)。
2巻目からは徐々に桂木の出自やら内面が見えて来て、「くうぅ〜〜」っと呻きたくなるほど面白くなるんですが、とにかく焦れったい。さらに待つこと一年。
3巻は暁人が胸がすくくらい賢く強かに成長して、さらに面白くなります。何故って、読んでるこちらが暁人に魅了されるのと同じ変化が桂木に生じているからです。
そして待望の4巻目。「きゃ〜〜」っとジタバタするくらいの佳境に入ってます! 
この機会に1巻から通しで読み返したのですが、深みがあって非常に読み応えがある傑作だと改めて感嘆してしまいました。

このお話は明治という特異な時代の身分制度が重要な要素であり、当然ながらこの辺があやふやだとチャチなものになってしまいますが、きっちり綿密に描かれています。
日高ショーコ先生は画力のある方なので、華族社会の優美さは十分伝わってきますが、同じ年代のものとして、三島由紀夫の『豊穣の海』の中の、『春の雪』が映画になってますので、こちらを見ると分かりやすいかも(正確には大正時代ですけども)。
そう言えば、映画の松枝侯爵の令息・松枝清顕役の妻夫木くんって、暁人を彷彿とさせますね。学習院の制服姿…よだれが出そう。
映画は当たり前ですが、男女ものですし完全にメロドラマですが、『憂鬱な朝』は同じ禁断の愛でもさすがBL、もっと骨太で男のロマンに溢れています。

明治の世になり世の中は大きく変わりました。旧大名も華族となり新しい生き方を求められましたが、封建的な考え方は変わらなかったようですね。養うべき使用人や旧領地の民を抱え、当主は家のために生きる事を求められます。身分が高ければ高いほど個の意思のまま生きる事は許されない。
暁人の父親も、桂木も、桂木に心酔している雨宮も、久世家に対抗意識を燃やしている桂木の兄ですら、古い因習と思っても抗えないものがありました。
桂木に至っては、暁人に『男妾』と言われるほど、なり振り構わず家の為に奔走しています。それは決して暁人の為ではないのですが、それが何故なのか徐々に分かってくると共に、それでも変わらず桂木に寄せる暁人の一途な愛情が切なくて、切なくて…。
暁人は身分に拘らない新しい感覚の持ち主ですが、それは自分の心に忠実だからだと思います。それでも、『春の雪』の清顕のように浅はかではないので、愛する人の幸せを願い冷静に行動するのです。だからこそ、余計に桂木とすれ違ってしまいます。
人は誰しも、『自分が存在していることの意味は何だろうか』という疑問を持ち、その存在を認めてくれる人を必要としていますが、それはどんな時代の、どんな世の中に生まれても、変わらないものなのだと、二人…特に、桂木を見ているとしみじみ思います。そして、彼は全てを疾うに分かっているのです。それでもすれ違う二人。
二人がどうすべきなのかは、4巻目の暁人の親友、石崎の台詞に集約しています。
「お前たちならそんな状況も越えられるだろ!?」と——そして桂木は…
お話はまだ続くと思われますが、恐ろしい事にならなければいいのですがね…。
二人がより良い形で幸せになって欲しいと願いながら、また一年、楽しみに待ちたいと思います。


ついでに、と言っては怒られそうですね。こちらも傑作なのでご紹介。

初恋のあとさき (花音コミックス)

日高ショーコ / 芳文社

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以前ちょこっとご紹介した、『嵐のあと』に登場する嫌味〜な受け子くん、美山のお話です。私はこの彼、苦手だったんですね〜…。
でもこのお話で、彼がどうしてあんなに捻じくれ曲がったのか、その原因と、結果と、発展が見られます。良いです。すご〜くいい!!
日高先生の作品は、ホントにきちんと“男”が描かれていると思います。私は常々、男って何? あいつらって何なの?? と思いながらBLを書いてます。まるっきり未知なる世界への挑戦なんです。
だから、先生のお話を読むと唸ってしまいます。嗚呼、私もこんなの書いてみたい!
『嵐のあと』のふたりのその後もありますので、合わせてご覧頂きたい傑作です。

余談:表題の二人は若いですよね。体つきからして『嵐のあと』の二人とは違うんですよ。そういう描き分けもすごいなぁと思います。
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by apodeco | 2012-08-20 00:11 | よろず感想文 | Comments(0)