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よろず感想文 その2…BLも、そうじゃないのも

最近、平日は仕事から帰って飯食ってフロ入って寝る…しかない生活を送っているので、やっぱりじっくり書く時間ないんですが、なんかもう、ちょっとでも書きたくて仕方ないので、ブログ更新します!

前回の続きで、草間先生の非BLものと、BL本のご紹介です。
ではまず、非BLもの『うつつのほとり』

迷信話集 うつつのほとり(クロフネコミックス)

草間 さかえ / リブレ出版

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版元はリブレ出版なんで、最初は久々のショタものか!(ごめんなさい…)と思ってしまいましたが、全然違った(笑)
【クロフネコミックス】というオールジャンルのレーベルを創刊したのだそうで、そのレーベルでの草間先生の初コミックスになります。
他の作家さんの作品は未読なので、まだ何とも言えませんが、大人のまんが好きのため…とのうたい文句があるので、ちょっと期待していますよ、リブレさん。
…で、こちら『うつつのほとり』ですが、草間先生の非BL話では、私は一番好きかも。
先生お得意の昭和初期のお話です。主人公は、母親の静養のため東京から山がちな村へやって来た少年・敬(たかし)くん。小学校低学年くらい…でしょうか、おっとりとした母親思いの優しいお坊ちゃまです。
彼はすぐに田舎に馴染んで、友だちも沢山できますが、村に着いて最初に見かけた赤い髪の少年・弥七(やしち)が気になって仕方ありません。
だけど、弥七は村の嫌われ者で天狗と噂されているいわく付きの少年。友だちになろうと近づく敬に、弥七自身も自分から遠ざけようと邪険な態度をとるのですが、聡明で真っすぐな敬に心を開き、ふたりはこっそり山の中で交流を深めます。
山のお寺の寺男として暮す弥七は、学校へは行っていないけれどとても物知りで、敬に自然についていろんな事を教えてくれます。
こうして田舎で暮らしながら、日々成長して行く敬の物語なんですが、単なる静養だけではない母親の事や、村の大人や子どもたちにまで広がっている弥七に対する偏見などに、心を痛めたりする敬の様子がいじらしく、そして、とても考えさせられます。
タイトルに【迷信話集】とついていて、帯やあらすじにも田舎ならではの迷信や風習の謎を解く…とあるんですが、一番大きな迷信は、人々の心の中にある【無知と偏見】だと思います。その “ 迷信 ” に真っすぐな心で向かって行く敬に、心弱くなっていた母も励まされて…。
本当に、心があったかくなって、幸せな気分になれる素敵なお話です。それに、先生の描く奇麗な日本の風景がとてもいいんですよ〜。一本の映画に撮ったら素敵だろうな…と具体的に映像が思い浮かぶくらい。
非BLでも、やっぱり草間先生だわ…という、心洗われる逸品ですのでお勧めです!

【余談】 青梅の毒
毒…と言えば、お話の中に青い梅の実は毒だというのが出てきます。実家で梅酒を漬けていたので、子どもの頃から毒の事は知ってましたが、1、2個食べたくらいなら大丈夫との事。大人なら300個くらい食べないと死なないんだそうです。
だけど青梅って、どう見ても美味しくなさそうですよね。とても良い香りがするけど、渋柿みたいに口の中が酷い事になりそうなイメージが…。
(渋柿食べた事ありますよー。焼酎に漬けたのに渋が抜け切ってなくて、口が曲がりました。しばらく何食べても美味しく感じませんでしたね。渋柿は干し柿にするに限ります)
なのに、うちの母方の祖母はこの青梅が大好物で、ガリガリ食べていたんだそうですよ。青梅の毒と聞くと、無条件にばあちゃんを思い出すのですが、どんな味がするのか聞いておけば良かったなぁ。


さて、お次はお待ちかねのBLものです。
25日に発売されたばかりの、『明け方に止む雨』

明け方に止む雨 (キャラコミックス)

草間さかえ / 徳間書店

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こちらは3つの恋の物語です。
前半分が日本のお話で、裁判所にお勤めの書記官・里村と刑事の結城のお話、里村の同僚で事務官・山田とお隣に住む高天のお話。
後の半分がイギリス…でしょうね、地主の三男坊・ジョゼと、じい様のせいで逼塞して絵を描いている男・アーサーのお話です。
日本人のお話は、特殊なお仕事に就いているメンズばかりで、仕事と同じくらい各人が特殊というか、ちょっと変わってます(笑) 
つい最近、友人と『この世の中の半分の人は、生きて行くために必要に迫られて選んだ【職業】に就いていて、自分がやりたいと望んでその【職業】についている人は少ないね…』と話したばかりで、この年になると働けさえすれば良いかと割り切りも出来るけど、働く事は人生の命題のひとつですから、やっぱり色々と思うところが多いです。
自分の天職を探していた20代の頃、『職業選択の自由、アハハン♪』(『憲法第22条の歌』っていうのだそうですよ)という印象的な歌を歌う就職情報誌のCMがありましたが、本来は人が職業や仕事を決める時、「働ければ何でもいいや!」なんて思わないし、自分の望みや適正を鑑みて選びますよね。特殊な職業であればあるほど、その職業に相応しい自身の思い入れが必要になると思うのですよ。だって、ちゃらんぽらんで正義感もないのに、いきなり「刑事になろう!」とか、「裁判所に就職しよう!」なんて思わないし、就けませんものね。
だから、裁判所にお勤めの山田と里村は、自身の職業に見合った性格をしています。それ故か、ちょっと突飛な行動に出がち。普通はいくらタバコの臭いが変わってるからって、山田みたいな事は考えないだろうし、高天みたいにバラの花の縁(えにし)をドキドキしたりする方が普通でしょう。
里村だって、気持ちは分かるけど、『オイオイ、そう出るか…』と鼻血のシーンでは笑いました。顔に似合わず血の気が多いのかしら。すごくいいです、鼻血!(そして、先生のあとがきに大笑い。私はそこまで考えなかったけど、確かにこれは酷いかも…)
対するお相手、刑事の結城はモノローグで語っていますけど、自分をよく分かっている男です。はっきり言って、山田と里村から「怪しい男」と散々な言われ方をする高天が、一番普通でマトモな人です。
そんな4人が、草間先生が仕掛けた疑惑と真実を明かす過程で、惹き合って、絡まり合って…恋に堕ちる。一体どんな疑惑と秘密があるのか、特に鼻血が気になる方には、是非お手に取って頂きたいと思いますが、個人的にはアーサーとジョゼ、二人の画家のお話の方が好きかも。
絵が好きという共通点で自然に惹かれ合う所も良いし、可哀想なんだけど逃避行へ走る所なんかロマンチックで、(全然違うけど)映画『モーリス』を思い出しちゃいましたよ。
作中に出て来る海の絵は、ギュスターヴ・クールベの『波』かなと勝手に想像してますが、その海の色とジョゼの瞳が同じ色だと言うシーンが素敵で…。初めての外国ものとの事ですが、もっと描いて欲しいなと思いました。

【余談・その2】 映画と、あわ〜い不思議BL本
アーサーのように、誰々の身内だから…と残酷な仕打ちをされてしまう映画を思い出しました。

愛と宿命の泉 PartI フロレット家のジャン デラックス版 [DVD]

ジェネオン エンタテインメント

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フランス映画で、邦題『愛と宿命の泉』です。パート1とパート2に別れた長いお話で、こちらパート1の『フロレット家のジャン』というのが、フロレットという女性の息子のジャンという意味で、母の生まれ故郷に妻と娘をともなって街からやって来たジャンが、ある男の策謀によって不幸な事故で亡くなってしまうまでのお話です。
パート2の『泉のマノン』で、ジャンの娘マノンがこの策謀を知る事となり、ある方法で復讐を遂げるのですが…最後の最後に「じぇじぇ〜〜っ!」どころじゃない真実が明かされて、すごく哀しくなっちゃうお話なのでした。でも、エマニュエル・ベアールが奇麗ですしね〜、イヴ・モンタンもジェラール・ドパルデューも素晴らしいし、何より面白いのでお勧め致しますわ。

あとね、兄弟に死なれちゃう里村の境遇と似たようなお話で、すごく不思議なBLがあるのでご紹介。

ロマンスの箱庭 (F-BOOK comics)

伊東 七つ生 / ブライト出版

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全部で5話の短編集。どのお話も恋愛になるのかな…? という淡いBLものなので、がっつり挿入がないダメ!という方にはお勧めできませんが、私の好きなレイ・ブラッドベリに繋がるようでいて、この方独特のファンタジーなんでしょうね、不思議なお話が多くて面白かったです。
お勧めは、霊が見えて困っていた友人にキスされたら、霊感が移っちゃったという『うつしがみ』と、人付き合いが下手で灯台守をしていた兄が自殺してしまい、遺品を整理しに灯台へ来た弟と、そこへちょうど訪ねて来た兄の友人だという男と兄の思い出話をする『光達距離』。短い話の中に、相手を思う気持ちがじゅわーっとあふれてて、温かい話でした。
人の想いを知るとか、秘密を知る、というのは、やっぱり重い事だと思うのですよ。でも、知らないより、知った方が先へ進めるのかな…と、考えさせられた『明け方に止む雨』と『光達距離』でした。

さあ、秋の夜長は楽しい読書。次回も何か良いお話をご紹介したいと思いますわ。
by apodeco | 2013-10-27 22:48 | よろず感想文