妄執の嵐 — 水原とほる『窓』

 やはりイラストは、バレンタインデーには間に合わず…。ちょっと構図が気に入らないので、新しく描き直しています。2月中には更新したいと思います。
 代わりというわけではありませんが、ついにBL(耽美)小説の感想文を書きました。『唐梅のつばら』と迷いましたが、こちらにしました。
 水原かほるさんの短編集『窓』です。

窓 (ピアスノベルズ)
水原 とほる / / マガジン・マガジン
ISBN : 4914967707
スコア選択: ★★★★☆




 以前『山本タカト』さんの画集をご紹介したときに、ちらっと触れたのですが、肉体的にも精神的にも痛い話なので、そういうのがお嫌いな方には駄目だと思います。指向性が強いので、お勧めというよりご紹介するのみ。
 バレンタインデーのお詫びなのに、Sweetどころか『Bitter&しょっぱい』です…。

 表題作 『窓』は、高校二年生の夏休み、園芸部の「保」は水遣り当番に来ていた温室で不良グループに絡まれ辱めを受けていたところを、偶然通りかかった水泳部の一年生「隆明」に助けられます。ホッとしたのも束の間、助けてくれたはずの「隆明」に襲われてしまい、以来卒業するまで「隆明」の命じるまま身体を捧げ続けることになります。地方の大学へ進学し、ようやく解放されたかに見えた「保」ですが、ある日、マンションの前に「隆明」が現れて…。





 「痛い」話を長々読むのはつらいから短編ならいいかも…と思ったそこの貴方、あま〜い。短編故に水原さんの要素が濃縮されている感じ(笑)。
 あらすじを少し追っただけで既に「はあぁ?」な展開です。一目惚れのストーカーですね。(身も蓋もない説明ですが…)
 表題作 『窓』の他に『温かい血』『秘密』『黄色い花(書き下ろし)』と四作収録されていますが、全てに共通してアブノーマル性を濃厚に感じます。はっきり言って怖いです。それでも、書き下ろし以外全てハッピーエンド(主人公主体の広い意味で)なんですよ。
 何がハッピーなのか? それは、主人公が自分の人生を“良し”とするからなんです。例えどんな経験をしても自分がいいならいいっんですよ!(ある種の開き直り?)
 読んでいて、『運命の出会い』について考えてしまいました。
 『運命』なんて言葉を使うと大げさに思えますが、人は誰でも大なり小なり『運命の出会い』を繰り返しています。それによってもたらされる吉凶禍福に対してどう感じるか、どう対処していくかで、その人の置かれる状況が変わるのではないでしょうか。
 『窓』について言えば、「保」はあるきっかけ(痛いのよ…)で「隆明」に抵抗することを止めます。そのことで「隆明」と新しい関係を結ぶことができるようになります。そのときは、まだ心が伴ってはいませんでしたが、ある日ふと「窓」を開けたときに自分の本当の“心”に気がつくんです。
 それにしても、まあ! 本当に「痛い」こと「痛い」こと。妄執する攻に最終的に陥落する受、というのは痛い系のBLにはよく出てきますが、やっていることは犯罪ですから妄想の極地です。「保」と「隆明」が気持ちを確認し合う場面でやっと溜飲が下がる思いでした。

 さて、他の作品は、
『温かい血』:叔父×甥もの。
       我が儘な甥をソフトSMでお仕置きする、の巻。
『秘  密』:完全SMもの。
       ドSな「攻」×「攻」カップル(…BLは奥が深いね!)に
       調教される男の子のお話。
『黄色い花』:親子(?)もの。
       主人公が出会った、画家とその息子の不可思議な愛情関係。

 水原作品のどこに惹かれて読むかというと“徹底している”ところでしょうか(笑)。ちょっと他のBLにはないものを感じます。
 どれもこれも(その道の)秀作…。興味がある方のみチャレンジしてみてください。


a0095010_23223321.jpg【おまけ】My Favorite Words.
“人間はすぐ慣れる”
映画『アンゲロス』〈1982ギリシャ 出演:ミカエル・マニアティス他〉より、アンゲロスの台詞

 SMです!って宣言されていればいいんですけど、(これだけ書いておいて今さらですが)暴力は嫌いです。だから『窓』は読んでいて結構ツラかったのですが、思い出したのが『アンゲロス』とうギリシャ映画。ゲイのギリシャ人青年の悲劇の物語です。

 複雑で貧しい家族を支えるアンゲロスは優しい青年です。恋人が転勤して別れたのをきっかけに、水兵のミカエルに恋をします。ミカエルが優しかったのは最初だけ。アンゲロスがすっかり夢中になった途端、自分の遊ぶ金を作らせるために“女装して客を取れ”と命じます。アンゲロスは嫌々ながらも命令に従って夜の街に立ちますが、これがのちに彼自身を、そして家族を不幸のどん底へ落とすことになります。
 件の台詞はアンゲロスと客の間で交わされた会話の中に出てきます。取った客は紳士で妻も子もいますが、夜の生活に違和感があり、悩み抜いたあげくアンゲロスを買ったわけです。「君はそんな事(男娼)をさせられて辛くないか?」と訊かれたアンゲロスは“人間はすぐ慣れる”と答えるんです。(←だからあんたも大丈夫だと言いたかったみたい)
 「慣れるな〜!!」と心の中で絶叫したことはいうまでもありませんが。まあ、愛してたんですね。あんなロクデナシ野郎を。慣れ、諦め、忘却などは苦痛を和らげ生き抜くための人間に備わった能力ですが、やっぱり“慣れ”てはいけないこともあると思います。アンゲロスの愛は結局悲劇で終わりました。
 興味がある方は是非どうぞ。(アンゲロスって天使って意味なんだそうです)
 「保」が「隆明」に対して抵抗を止めたとき、私は全てを「諦め」て「慣れ」ようとしたのだと思いましたが、心の深い部分で愛が芽生えていたんですね。真珠貝が、身体に入った異物を痛くないようにと真珠の粒を作るように、痛みを愛に変えたのでしょうか。どちらにしても異常な形ではじまった関係は、時間をかけないと昇華できないもののようです。
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by apodeco | 2008-02-15 23:58 | BL感想文 | Comments(0)