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暑中お見舞い申し上げます

またまた、お久しぶりの更新です。
毎日、も〜う、暑くて暑くて大変ですが、皆さまお元気でお過ごしでしょうか…。
熱中症にはくれぐれも気をつけましょう。テレビでやってましたが、脇の下に小さな保冷剤をタオルで巻いて挟むと、熱を下げるのに本当に効果がありますよ。
暑さで頭がクラクラしたらやってみて下さい。

さて、今回はブログ内容のお引っ越しについてです。
実は、もう一つ開いていたブログ【それでも、地球はまわっている。】を、この5日で閉めました。
『1000文字小説を書いて載せる』という趣旨で始めたのですが、『1000文字でお話を書く』というのは案外難しくて、結局3作しか書けませんでしたし、ほとんど本家BLサイトのメモ代わりになっていました。
その本家サイトを6日にリニューアルしたのに伴い、メモの役割も必要なくなりましたので、思い切って閉めることにしました。

でも、せっかく書いたお話なので、そのうちの2作をこちらで公開したいと思います。
それと、こちらで公開してからBLサイトに移した『紫雲、棚引けば—庚申塚高校物語—』(全年齢向け)を、こちらの元のページに少しずつ戻しますので、お暇なときに覗いて見てください。何だかややこしくてスミマセン…。
本来まめな性格ではないのに、2つブログを持つのは無理がありましたね…。
これからは、またこちらでいろいろ “つぶやき” たいと思いますので、よろしくお願いします♪

↓ 1000文字小説は、つづきを読むからご覧下さい。



[赤いボウフラ]

 真弓が蛇口を捻ると水が赤かった。さびだと思ったが洗い桶に溜まった水が蠢いている。赤いボウフラだと気づいた途端、悲鳴を上げていた。
「どうした」と悲鳴を聞きつけた唐沢が背後からのぞき込んだ。
「うわっ、これボウフラか? これだから古いビルは…。俺、管理人室へ行ってくる」
 唐沢は吐き捨てるように言うと出て行った。
 入居している雑居ビルは老朽化が激しく管理が最低だったが、社長は得意先に近いのと家賃が安いという点だけで借りていたようだ。
 会社の環境だけが原因ではないが、勤め先の小さな医療系の出版社は社員が次々辞めていき、今は真弓と唐沢しか残っていない。
 真弓が待遇も給料も悪いこの会社を辞めないのは、ここしか採用されなかったからだ。編集者になるのが長年の夢だったから、どんな会社であろうと経験を積んでおきたかった。
 それともう一つ、社長との関係を清算できずにいたからだ。社長は五十を過ぎていたが、見た目は若く男振りがよかった。仕事も掛け値なくできたが、金と女にだらしなかった。
 一昨日、真弓の先輩にあたる女性社員が社長に辞表を突きつけて、慰謝料とお腹の子どもの認知を迫った。外で話そうと彼女を連れだした社長は、そのまま戻ってこなかった。
「吸水タンクの掃除を何年もしていなかったらしい。すぐ業者を呼ぶってさ」
 戻ってきた唐沢は、シンクの洗い桶で蠢く赤い糸を目で追いながら言った。
「これ、赤いからユスリカの幼虫かもね。害虫には違いないけど、ヤブ蚊よりましか」
「ユスリカって、普通の蚊と違うの?」真弓が眉を潜めながら訊いた。
「吸血しない蚊なんだ。何のために生きているのか分からない虫だよ。
 水の汚染度を知らせる生物指標でね、きれいすぎる水や逆に汚すぎる水には住めない。ぬるいタンクの水の中が最適だったんだな」
 唐沢はため息をついて「俺もこんな会社、辞めるよ」と呟いた。
 潮時なのだと真弓は思った。一昨日の修羅場を眼前に見て驚きはしたものの、薄々気づいていた結末で先輩に同情さえ覚えた。
 ぬるい水に浸かったままではいけない。真弓は全てを思い切るように洗い桶の水を捨てた。排水口に流れる赤いボウフラが、数日前、風呂場で見た血の筋に見えて真弓は小さく震えたが、同時に清々して心が軽かった。
(了)

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[整形美人]

 帰宅時間の電車の中は中途半端に混んでいる。由香利は乗降口の手摺りに寄りかかって車窓を眺める振りをしながら、自分の顔をじっと眺めた。
 ここ数日間、美容整形のことがずっと頭を占領していた。自分には一生関係ない事と思っていたのに。
 先週、会社帰りに声を掛けられた。派手やかな顔立ちの水商売風の女に見覚えはなかったから人違いだと思ったが、相手はカラカラと笑いながら由香利の肩を叩いた。
「やだっ。高校三年の時一緒だった中村和美よ。分かんない?」
 声を聞いて瞬時に蘇ったのは、一重の眼に白くて四角いはんぺんのような和美の顔だ。由香利は茫然と目の前の見知らぬ女を見詰めた。
 整形手術を受けたと言う。綺麗になれたのが余程嬉しかったのか、訊きもしないのに手術の様子はおろか金額まで教えてくれた。別れ際、受けたくなったら紹介するからと彼女の名刺を渡された。
 これは何かの啓示だろうか。奇しくも派遣会社から来月で契約の更新が打ちきられると伝えられた日だった。
 由香利は窓に映った自分の顔を見ながら顎をさすった。顔の造作は悪くないと思うが、和美と同じくエラが張っているのが難点だ。
 そう言えば、短大で就職を決めた子はみんな美人だったと思い出す。由香利は契約社員でも採用されなかった。派遣会社に登録し、二ヶ月待ってようやく得た職場だった。
 やっぱり顔かとため息をついたとき、後ろのドアが開いてサラリーマンが三人乗ってきた。上司らしい年輩の男が声高に何か説明していた。
「面接でもね、どっちも甲乙つけられなかったからさ、綺麗な子の方がいいじゃない。目の保養になるから」と大きな声で笑った。
 他の二人は愛想笑いを浮かべていた。何の話か聞かなくても分かる。由香利は今晩、和美に電話を掛けようと思った。
 年輩の男が途中で降りてしまうと、残った二人連れは顔を見合わせ苦笑した。
「派遣の子、若いんだってさ。課長のお守りだからスキルは関係ないもんなあ」
「新設の課って言っても窓際もいいとこなのに、本人も開き直っちゃったのかね。昔はあれでも颯爽として格好いい人だったけど、基本的に能力がなかったよね」と笑った。
 能力ね、と夢から覚めた気分で自分に足りないものを考えた。語学、パソコン…、どれも急には身に付かない。
 それでも「整形美人は最後の手段」だと、由香利は小さく呟いた。
(了)
by apodeco | 2012-08-06 17:25 | 散文