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はつこいの死霊

はつこいの死霊
草間 さかえ / / 東京漫画社
ISBN : 4902671085
スコア選択: ★★★★★


My Favorite Comics.(R-18)

かわったタイトルです。「ホラーラブロマンス(笑)???」と思いましたが、
これは主人公「智(とも)」と「裕一」を繋ぐキーワードでした。
(「初恋の祟り」という実際の新興宗教の教義だそうです。驚愕!!)

自分の人生に多大な影響を与えた人 —  誰でも思いあたる人がいると思います。
「智」にとって「裕一」は苦い思い出と共に忘れられない人でした。
ある出来事から会わなくなって10年、このさき一生会わずに過ごすと思っていた人に
もう一度出会ってしまったら、人はどうするのでしょう。

「死霊が息をふき返す」

「智」は迷わず行動します。仕事と10年前の出来事を盾に「智」は「裕一」にある取引を持ちかけます。
それは…





「裕一」にとっては復讐にしか感じられず、悩み戸惑ってしまいます。
10年前の出来事は覚えていても、肝心な「智」のことは顔すら覚えていない「裕一」と、ふたりで交わした会話のひとつひとつを鮮明に覚えていて、性的嗜好にも、就いた職業にも多大な影響を受けてしまった「智」。
大きくすれ違っているふたりの記憶から「智」が「裕一」に思い出して欲しかった事は…。

無愛想で年下のくせに落ち着き払ってふてぶてしい「智」の態度は「裕一」に恐怖を感じさせますが、よく見ればその行動はとても優しくて、本当に「裕一」のことが好きなんだ…と、なんだかカワイクなってしまいました。ふたりのズレ具合が本編後の描き下ろしまで続いていく、大変良くできたお話でした。あんなに悩んだのに真実なんてこんなモノかもしれないな〜と、笑えるオチでした。
絵はごつくて個性的ですが、内容と合っていて素敵です。カット割りが巧みでセンスの良さを感じました。
読めば読むほど味わい深い秀作。一押しの作家さんです。
裏表紙も必見!!

はつこいの死霊_a0095010_15455273.jpgMy Favorite Words.
『それでもなるよ きっと誰か好きになる』
(P19「裕一」の台詞)

15歳の「智」に「裕一」が言った言葉です。
複雑な家庭環境にいた「智」はナーバスになって思わず「誰も好きにならない」と漏らしますが、それを受けての言葉。
すかさず「説得力ない」と突っ込まれてしまいます(笑)。
その後に起こる出来事を考えると、罪悪感から出た言葉だったのでしょうか?
私には『初恋の死霊』を抱えたままの「裕一」が、「智」にはそうなって欲しくないと
願った言葉に聞こえました。
忘れたいと願うほどの「裕一」の記憶は何だったのでしょうか。
人は過去の出来事が積み重なって存在しているわけで、どんなに思い出したくない過去の出来事もそれ無くしては有り得ません。つらい出来事ほど、それを踏みしだいて生きて行かなければ自分自身と向き合えない。
「智」は過去をしっかり受けとめて大人になり、忘れたいと願い自分と向き合わなかった「裕一」は大人になりきれなかったのかもしれません。
もしも私が「智」だったら、こんな仕打ちをした人を好きでいることが出来るか疑問ですが、恋心とは不思議なもので『それでもきっと誰か好きになる』 — 。
仕方ありません「智」の『初恋の死霊』は「裕一」にしか付かないのですから。
by apodeco | 2007-03-24 16:02 | BL感想文