紫雲、棚引けば—庚申塚高校物語— その1

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Photo by 具満タン




学ランの子を描きながら、自分の高校時代を振り返ってみましたが、楽しい思い出ばかりではなく、落ち込んだり失望したり、赤ッ恥のかきどおしでした。
青春時代の真ん中は〜♪(古い…)必死で毎日を過ごしていたように思います。
なんでこんな学校へ行ったかと嘆くこともしばしば。それでも得難い経験や出合いがあり、大切な思い出に変わりありません。
あの頃、毎日楽しい学校生活であったなら、今、こんな思い出語りなどしていないのかもしれません。
今ならば「分かること」が、当時の私には分からなかった。もう一度あの頃に戻ったなら、自分はどうだろう?そんな想像をしていたら、ちょっとお話を書いてみたくなりました。
そんな訳で書いてみたのですが、なにぶん素人で、これがお話になっているのかすら分かりません。誤字脱字、言葉の使い方など間違っているところが多いと思います。
お気づきの点はお知らせいただければ幸いです。
どうか、お暇つぶしのついでにお読みいただければと思います。

興味のある方のみ↓より、どうぞ。
※この物語はフィクションです。登場する団体等、一切関係ありません。



[佐々木則行の場合(上)]

 この春、高校へ進学した。小、中学校とも家から歩いて十分とかからない所に住んでいたから、電車通学しないと行けない学校を選んだ。幼馴染みや中学の友人のほとんどが地元の高校へ進学したので、わざわざ遠い高校を選んだ事を随分問いただされたけれど「ただ、何となく」としか答えなかった。
 本当の理由は、『誰も自分を知らない所』へ行きたかった—ということ。
 父親は警察官で、「地域のつき合いも仕事のうち」と自治会の役員をしていて顔が広く、この街には生まれた時から俺を知っている人が多かった。商店街を歩けば、威勢のよい魚屋や八百屋のおっさん達に声を掛けられ、新学期になって新しいクラスになっても、自己紹介しなくて済むほど顔を知られた存在だった。
 自ら働きかけなくても、存在を受け入れられる日常はとても過ごしやすいのもだったが、ある日ふと自分が怠惰で、しかも消極的な人間になりつつあることに気がついた。
 きっかけは、剣道の試合に勝てなくなったことだ。
「お前は受け身なんだな」
 道場で俺を指導してくれている親父の同僚の山脇さんが言ったのだ。
「勝負事は、そいつの姿勢が現れるもんだ。攻めの姿勢がないんだな、お前には」
 言っていることが分からなかった。剣道で攻めずして一本取ることなどあり得ない。それに受け身でも流れによっては、かわして胴を取ることもできる。
「姿勢だと言っている。お前は普段の生活で自分から動く事がなかっただろう。それで済んだからな。だから待ってるんだ、相手が動くのを。相手が動いてから自分が動く。それでは遅い」
 まず、自分を変えてみろ。山脇さんはそう言った。
 でも、どうやって?
 みんな自分を知っている馴染みの世界。人の目があったし、親父が警察官だからヘタな事は出来なかった。悪戯も、馬鹿な事も。やろうと思ったこともないけれど。優等生というほどではないが、いい子の部類に入るだろう。そんな自分に、訳もなくうんざり感じるときもあった。でも、黙っているのは楽だった。他人が示してくれる好意や関心に合わせてさえいれば、物事はすんなり進んでいったから。今更どうして変えられる?

『誰も自分を知らない所』へ行こうか?

 答えが見つかった訳じゃない。ただ漠然と思っただけだ。これで自分が変えられるか分からないけれど。
 同じ中学から進学した生徒は三人いたから誰も知らないということはないけれど、入学当日のクラス分けでその誰とも一緒にならなかったから、文字通り『誰も自分を知らない』状態になった。クラスの殆どが同じ中学から上がった生徒らしく、既に顔なじみ同士でグループが出来てしまっていた。自分で決めたこととはいえ少々後悔した。この仲間同士の固まりに割り込むには、怠けていただけに勇気がいる。でも決めたことだ。
『俺は自分を変えなきゃいけない』
 そう決心すると腹が据わった。とにかく自分から声を掛けた。出席番号順の席につくと、前の奴後ろの奴と自ら自己紹介をし、話しかけられればすぐに口を開いた。何度同じ質問をされても、根気よく繰り返し答えた。自分で自分が信じられなかった。家に帰ると人疲れして口をきく元気も出なかった。
 ぐったりとする俺を見て、家族は慣れない電車通学のせいだと思ったようだ。学校での俺を見たら、皆どう思うだろう。いつもは押し黙って、頷くくらいしかしない俺がもう十年分くらいは話している。幼馴染みは天変地異だと笑うだろうか。絶対に知られたくないと思った。特に妹と弟には。
 知られたときの反応を思うと、自分が滑稽で馬鹿みたいに思えたが、愚かしいとは感じなかった。自分自身に呆れながらも、やろうと思えばなり振り構わない、こんな自分もいたんだと可笑しくなった。外よりも、家族に対して見栄を張ることにも気がついた。知らない自分が見えてくることは、不思議と嫌ではなかった。おかげで入学して三週間も経たないうちに、クラスの連中のほとんどと口をきいていた。名前も、誰がどんな奴という認識もできていた。
 ただ一人を除いては。

 俺は入学早々、ちょっとしたヘマをしたのだ。
 入学式当日、校門近くの受付で名前を確認後、自分のクラスを教えてもらう。クラスの確認をして自分の教室へ入り、それから式の行われる体育館へ移動する予定になっていた。今年の新入生は約三百名。AからG組まであった。
 受付係は二年生が二人一組で四カ所に別れて対応したが、なかなか名前が見つからないのか、どこも順番待ちの列が出来ていた。どこでもよいはずなので適当な列に並んだ瞬間、前にいた生徒が振り向いた。俺よりも二十センチは低い薄茶の頭がこちらを驚愕した顔で見つめていた。思わず釣られるようにその顔を見下ろして、こちらも同様に驚いた。学ランを着ていたからてっきり男だと思っていたのに、薄茶の髪と同じ色をした瞳は大きく、縁取る睫毛の長いこと。小さめの鼻とサクランボのような唇を少し開いて見つめる様は、こちらが赤面しそうなくらい可愛かった。
「えっ、女の子?」
 心の中で呟いたはずが声に出ていたらしく、見開いていた瞳をさっと眇めて睨みつけると
「学ラン着た女子なんかいるかよ!」
 しっかり声変わりした低い声で怒鳴れた。
 その彼、飯島薫と同じC組になろうとは、間が悪いにもほどがある。教室でお互いの顔を見たときには、バツが悪そうにそっぽを向かれてしまった。余程怒らせてしまったらしい。以来口をきいていない。
 何かきっかけがあればと思うのだが、出席番号順の席はかなり離れていたし、同じ中学の連中が彼の席の前後に並んでいて、その親しい雰囲気の中に割り込んでいくには、出合いが出合いなだけに勇気が出なかった。そのまま三週間が過ぎ、もはや諦め状態だ。
 自分はこんなに小心者なのだと改めて認識してしまった。山脇師匠の指摘は正しかったのだ。『自分改造計画』はここへ来て頓挫してしまった。
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by apodeco | 2007-05-26 23:51 | 学ラン通信